7月8日には厚生労働省が、介護保険証についてもマイナカードへの一体化を進める方針を明らかにした。
しかし、紙の保険証を廃止して「マイナ保険証への一本化」をすることには様々なリスクが指摘されている。そのなかにはセキュリティ技術面だけでなく、法的なリスクもある。
マイナ保険証への一本化は憲法41条に違反するという。同条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めている。
幸田教授:「憲法41条は国会を『国の唯一の立法機関』と位置づけています。これは、国会に法律を作成する権利を独占させるものです。
この規定については、『法律』とはどのようなものをさすかが問題となりますが、判例・実務も学説も、最低限『国民の権利を制限し義務を課する法規範』は必ず含まれるという理解で一致しています。
つまり、『国民の権利を制限し義務を課する法規範』については、人権保障の見地から、国会が決めなければならないことになっています。これを『侵害留保原則』といいます。
もちろん、一定の例外は認められています。それは、国会が法律で行政機関に『委任』した場合です。すべて国会の議決が必要だというのは現実的ではないからです。
ただし、判例・学説によれば、その場合、委任は相当程度、個別具体的に行うことが要求されています(最高裁昭和49年(1974年)11月6日判決等参照)。
しかし、マイナ保険証の強制については、委任の根拠となる法律の規定がなく、委任立法の要件さえ満たしていません」
幸田教授は、マイナ保険証によって、国民の以下の3つの「人権」が侵害されるリスクがあるという。
・医療アクセスを求める権利(憲法13条、25条参照)
マイナ保険証への一本化はこれらの人権を侵害する危険性があります。
医療アクセスを求める権利(憲法13条、25条参照)
医療機関の端末でマイナ保険証を提示して、資格確認でエラーが出て手間取ってしまい、結果として受診が遅れて亡くなった事例が発生しています。
また、マイナ保険証は、高齢者・障がい者の方にとって使いにくいものです。
さらに、地方の医療機関では、マイナ保険証導入に対応できないという理由で廃業するところが出てきています。
マイナ保険証が事実上強制されると、マイナカードを持っていない人、あるいは持っているけれども健康保険証との紐づけを行っていない人が不利益に扱われることになります。
これが『法の下の平等』に違反するということです。
G7(先進7か国)でほかにIDカードと保険証を一体化している国はありません。
政府は『資格確認書』を交付することによって対応するとしています。しかし、保険証そのものではない以上、マイナ保険証を保有していない人が事実上の不利益を被るおそれがあります。 端的に、紙の保険証を継続して使えるようにすれば済むことです
権限ある者がその気になれば、すべての情報に不正にアクセスし、または不正利用できる状態といっても過言ではありません。
また、それを外部からチェックすることも困難です。
政治家に対する不信が広がり、時の権力に忖度(そんたく)する官僚が跋扈(ばっこ)している現状では、この点はきわめて深刻な問題といわざるを得ません
幸田教授は、憲法が保障している地方公共団体の自治権(憲法92条~95条参照)が蹂躙(じゅうりん)されているとも指摘する。
「重大な問題は、河野太郎デジタル担当相が2022年10月に唐突に、保険証を2024年秋に廃止し、マイナカードと保険証を一体化した『マイナ保険証』に一本化するという方針を発表したことです。 そもそも、国民健康保険業務は市町村の業務であるにもかかわらず、自治体にまったく相談も協議もせずにこのような方針を打ち出すことは、まさに地方自治の侵害にほかなりません。
法律で定める前に閣議決定などで既成事実化し、あとから法律で追認するという手法自体に問題があります。そんなことが許されては、憲法41条がなし崩しにされてしまいます。