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ステージIVの末期がんで約1年におよぶ闘病生活を続けていた経済アナリストの森永卓郎さん(享年67)が1月28日に亡くなった。
「民間の保険には加入していなかった」という森永さんは生前、「がんの治療でも、手術、放射線治療、抗がん剤治療といった標準治療の範囲内であれば、ほとんどが“高額療養費制度”など公的補助でカバーできる」と、低所得者でも治療を受けやすい日本の医療制度の利点を語っていた。
高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分については公的医療保険から支給する制度のこと。まさに“命綱”というべき制度なのだが、現在、崩壊の危機にある。
政府は患者団体にも一切ヒアリングをしないまま、「自己負担限度額の上限を今年8月から段階的に引き上げる」と昨年末に発表。2027年8月から、中間層となる年収約700万円のケースでは、1カ月あたり5万8,500円の負担増になる。
「引き上げられると、多くのがん患者や難病患者が、治療を中止するか否かという決断を迫られます。実際、当団体が1月に緊急実施したアンケート調査には、3日間で3,600件以上もの悲痛な声が寄せられました」
《現在でも月に10万円近い医療費がかかっており、家族に申し訳なく思っています。これ以上は支払えないので無治療を選ばざるをえない(50代女性)》
《乳がん骨転移ステージIVです。エンドレスの抗がん剤治療をしていますが、とてつもなく高額。小学生の子どもが2人いるので学費のことを考えると不安しかない。もう生きることを諦めるしかないのか(40代女性)》
《ステージIIIの乳がんで抗がん剤の治療をしています。1錠8,000円の薬を朝晩毎日飲めるのは高額療養費制度のおかげと感謝しています。治療を続けていきたいです。これ以上がん患者を苦しめないでください(30代女性)》
「年収約700万円の方の場合、現行の自己負担限度額は8万2,430円ですが、最終的な引き上げとなる2027年8月からは、1カ月あたり13万8,980円と、約6万円も負担増になります」
ページニオの服用期間は、中央値で約29カ月。つまり、平均すると29カ月間、高額な医療費を払い続けねばならない。
「ただし、直近12カ月の間に3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降は自己負担限度額が引き下がる“多数回該当”が適用されます。
この特例のおかげで長期の治療を継続できている患者も多いのですが、多数回該当の自己負担限度額も現状の4万4,400円から7万6,800円に引き上げられてしまうんです(年収約700万円の場合)」
現在約140万1,000円の自己負担限度額が、約241万3,000円と約101万円も負担増になる。
引き上げ案を知り『治療を断念し、死を受け入れる』との悲痛な叫びが届き始めています」
一連の自己負担限度額の引き上げによって、「もっともダメージを受けるのがボリュームゾーンである現役世代の“低・中所得者層”(年収約260万~約770万円)だ」
自己負担限度額の引き上げは「現役世代の負担を減らす」どころか、ボリュームゾーンである現役低・中所得者層の負担を大幅に増やす可能性がある
「地獄の日本」