Muho’s diary

小説などを書いている大倉崇裕のオタク日記です。

小説などを書いている大倉崇裕のオタク日記です……が、最近は吠えてばかりです。見苦しくて申し訳ありません。でも、いま日本を支配している政治家とその一派の方が遙かに見苦しいでしょう? ちなみに、普通の日常はこちらです。https://muho2.hatenadiary.jp

もし「共謀罪」が成立したら、私たちはどうなるか

共謀罪なしでは五輪開催できない?

2017年3月21日に、過去に3回廃案となったいわゆる共謀罪法案が閣議決定され、国会に提出された。その後、4月6日午後の衆院本会議で審議入りした。与党は5月中の成立を目指しているという。

共謀罪とは、犯罪の未遂や予備よりも前の計画段階で処罰の対象とする犯罪類型である。
与党は、同法案が過去のものと異なる点を強調しようとしているが、対象犯罪の数が限定された以外に、実質的な相違はない。
その内容は、政府が締結を目指すとされる国連国際組織犯罪防止条約との関係では共謀罪処罰そのものであり、日本語でいかなる名称を付けようともこれが共謀罪法案であることには変わりがない。
政府は、本法案を「テロ等準備罪」を処罰するものだとし、首相は、これがなければオリンピックを開催できないといっても過言ではない旨を述べていた。
しかし、法案の中には、テロのための条文は1ヵ条も存在していない。

適用対象の条項に「テロリズム集団その他」が付け加えられたが、「その他」の文言からも明らかなように、テロが除外されないことが示されているだけで、ほぼ無意味な挿入である。
こうしたまやかしが判明した後、世論調査における同法案への支持は急落したとされる。
オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった2013年までの間に、政府の犯罪対策計画においてオリンピックのための共謀罪立法が論じられたことはなく、共謀罪立法がテロ対策の一環として位置づけられたこともないという事実が明らかになっている。
筆者は五輪招致を管轄していた文部科学省の事業で、2013年3月までドーピング対策の研究班を率いていたが、やはりそのような話は非公式にも聞いたことがない。
日本にはすでに予備罪や抽象的危険犯の広範な処罰規定があることから、国連条約締結のために共謀罪立法は必要ないと考えられる上に、2004年に国連から各国向けに出された公式の「立法ガイド」にも、共謀罪処罰の導入は義務でないと明示されている。
実際、条約締結のために共謀罪立法を行った国としては、ノルウェーブルガリアの2ヵ国しか知られていない。
このように、規制のために犯罪を創り出すものとしかいえない同法案に対しては、法律家はもちろんのこと、特に、日本ペンクラブ日本マスコミ文化情報労組会議を始めとする表現者の団体からも多数の反対声明が出されていることが注目される。
学術の分野からは、2月1日に「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」が公表され、筆者を含む日本刑法学会理事7名の呼びかけに150名を超える専門研究者が賛同している。
また、3月15日には、憲法学者政治学者を中心とする「立憲デモクラシーの会」が、長谷部恭男早稲田大学教授・元東京大学教授の起草にかかる「共謀罪法案に反対する声明」を発表した。

「無限定」という恐怖

これらの反対意見が問題視する点の1つは、適用対象に限定がないことである。
「組織的犯罪集団」には認定や指定が不要なのはもちろんのこと、過去に違法行為をなしたことや、過去に継続して存在していたことすらも必要ない。当然のことながら、それ以外の集団との線引きが事前になされているわけではなく、構成員の属性も限定されていない。
当初、与党議員らは、一般人は適用対象にならない旨を述べていたが、その後、法務大臣はこれを撤回する発言を行っている。事実、法案にはそのような限定は書かれていない上、組織的犯罪処罰法に関する最高裁判所判例も、限定を否定している。
すなわち、組織的詐欺罪を適用した最高裁の2015年9月15日の決定によると、ある組織がもともとは詐欺罪を実行するための組織でなかったとしても、客観的に詐欺にあたる行為をすることを目的として成り立っている組織となれば同法に該当し、中に詐欺のことを知らないメンバーがいても関係ない。
一般の集団がある時点から組織的犯罪集団とみなされることになるのである。
また、犯罪を行う計画についての「合意」は、やはり法案上限定されていないため、従来の共犯処罰に関する最高裁判例に従って解釈されることになる。
すなわち、暗黙のもので足り、ツイッターフェイスブックなどSNSを用いて順次成立する場合もある。犯罪が確実に実行されることの認識も必要ない。
さらに、「準備行為」は、法案では例が挙がっているものの、「その他」の文言があるため、同じく無限定である。
予備罪や抽象的危険犯の処罰に必要だとされる実質的な危険が要件となっていないことから、文言上、危険性のない日常的な行為がすべて含まれることになる。

(中略)

表現の自由はどうなってしまうのか

一般人が対象になるということでは、社会運動への悪影響も論じられているが、より一層広がりのある問題は、各種団体も批判するとおり、表現の自由全般に対する抑圧的効果である。
表現の自由に関心を持つ比較的若い世代の懸念の1つとして、マンガ・アニメなどのパロディ(いわゆる二次創作)の計画が著作権法違反の罪の共謀罪として摘発の対象にされるのではないかという点がある。
著作権法違反はおよそテロリズムとは無関係に見えるが、海賊版や模造品が犯罪組織の資金源となりうるという理由で、知的財産権を侵害する他の罪とともに、共謀罪処罰の対象犯罪に含められている。
筆者(経済産業省産業構造審議会で知的財産政策部会の関連委員会に所属する)は、パロディは独自のジャンルとして表現の自由の保護を受けるべきだと考えるが、筆者がどう考えるかは取締当局にとって重要ではない。
2017年3月28日には衆議院丸山穂高議員(大阪維新の会)の質問にかかる議論において、同人誌やグッズを作る二次創作団体であっても、それ自体として共謀罪の適用対象から外れるものではないことが確認されている。少なくとも、法令上、海賊版とパロディとの間の線引きは予定されない。
著作権侵害の罪は、被害者の告訴がなければ公訴を提起できない「親告罪」であるが、警察が目を付けたターゲットを摘発するために、原著作者に告訴を促すことは可能である。
とりわけ筆者が懸念するのは、性交や非実在児童の描写を含むマンガに対する否定的影響である。
筆者は京都府青少年健全育成審議会委員として、18歳未満の者への提供を禁止する有害図書指定に携わっているが、委員の中には、性交描写の多いマンガやDVDについて、検閲により成人に対する提供も禁止すべきであるという意見を公の場で述べる者が常に複数いる。
憲法上の表現の自由を正面から否定する発言であり、おぞましいというほかはない。刑法175条のわいせつ物等頒布罪で規制されない対象には、表現の自由だけでなく営業の自由も及んでいることが無視されている。
また、筆者は、数十年前の写真をモチーフに描かれた作品が摘発の対象となったCG児童ポルノ裁判にも、第一審から無罪の意見書を提出してきているが、同事件は一審・二審とも有罪となっている。これらは不当判決であり、現在、事件は最高裁判所に係属している。
本来、日本国における児童買春・児童ポルノ処罰法は、実在する児童のみを保護するために立法されており、実在の児童をモデルにしていない絵が処罰対象となるはずはないのである。

しかし、表現の自由に対し抑圧的な意見が世論の有力な一角を占めていることは事実である。共謀罪の適用に関しても、取締機関がこれに迎合する形で摘発のターゲットを定めることは十分に考えられる。
共謀罪法案の実像を見れば、テロ対策目的がどこにもないばかりか、本来マフィア対策の条約である国連国際組織犯罪防止条約への対応としても説明のつかない内容になっている。
今回共謀罪処罰の対象から除外された犯罪類型は、警察などの特別公務員職権濫用・暴行陵虐罪や公職選挙法政治資金規正法違反の罪など、公権力を私物化する罪、また、規制強化が国際的トレンドになっている民間の賄賂罪などである。
これは国際社会によって求められているのとは正反対の方向性である。警察は仕事がないなら、汚職の摘発に臨むべきである。